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[ブレゲ・マニュファクチュール探訪]冷静と情熱が出会うところ

ジュネーブから車で約1時間。標高1000m以上の峠を越えて坂を下ると、いきなり渓谷に出る。高級時計の愛好家にはよく知られるジュウ渓谷だ。この谷を北東方面に進むことさらに約20分。少し開けた盆地の中心に、「東」という名の集落ロリエントがある。スイスの至る所で見られる小さな村だが、目抜き通りには、似つかわしくない巨大な建物がそびえている。これがブレゲ・マニュファクチュールである。かつてはムーブメントメーカー、ヌーヴェル・レマニアの本社兼ファクトリーであったが、スウォッチ グループによる買収後、同グループのブレゲに吸収された。これまで、周囲の生産設備を集約することで、規模を広げてきた。約2万㎡以上の床面積と、850人以上の従業員数は、この地方でも有数の規模だ。


 しかし、筆者がロリエントで感銘を受けたのは、規模以上にユニークな生産体制であった。例えば、地板と受けの加工工程。現在の時計メーカーは地板と受けをCNCマシンで削り出すが、ロリエントでは昔ながらのプレス加工も併用されている。理由は「切削で穴を開けると繰り返し精度が出ないため」。ブレゲでは、切削で開けた穴を再度プレスで打ち抜くことで、穴の公差を最大5ミクロン以内に収めている。ちなみに、プレスで穴を抜く工程は、ヌーヴェル・レマニアやヴィーナスといった往年のクロノグラフメーカーのお家芸であった。コストがかかるため放棄された製法を、ブレゲは今なお守り続けている。関係者がプレス用の金型を見せてくれた。「昔使われていた金型を含めると、個数は5000個以上。金額にして3500万スイスフランほどあるよ」。