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ミニッツリピーターとは、簡単に言うと時刻を音に変換して告げる機構

 

スイスの時計展示会で高級時計の花形として注目を浴びるのは、昔も今も複雑時計だ。機械式時計では伝統的に、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)が3大複雑機構とされる。ここで「伝統的に」というのは、これらの複雑機構が開発されたのが今からおよそ2世紀も昔に遡り、現在も当時の基本原理に基づいて作られ、「現役」として存続しているからだ。他の産業分野ではちょっと考えられないだろう。

こうした最高峰の複雑機構を見ていて、いつも頭によぎるのは「同じことの繰り返しは、退化である」という、ずいぶん昔にどこかで時計師から聞いた言葉だ。伝統を大切にしながら技術の継承に努めることはもちろん重要だが、そこに革新を加えていかなくては、進歩はなく、未来へとつながらないことを端的に言い表している。

ミニッツリピーターとは、簡単に言うと時刻を音に変換して告げる機構。もともと照明に乏しい環境、たとえば暗闇で“時刻を音で聞く”ために考案されたものだ。このミニッツリピーターにとって最も重要なのは、言うまでもなく「音」である。時計メーカーは、小さなメカニズムが発する音を増幅させ、透明感あふれる響きを実現するために技術を凝らしてきたが、物理的な音量や音の広がりだけでなく、人間の耳で知覚する音である以上、聞き取りやすさや心地良さまでもが問われるから、そこには他の複雑機構とは違った独特の難しさがある。それは、限りなく「良い音」を探求する楽器やオーディオ機器の世界と似ているだろう。